(薬剤師会に掲載したものを編集)
今回は病気ではない病気のお話でございます。
あきらかに矛盾がございますが、
そういったものもあるのでございます。
例えば、眼精疲労。
西洋医学におきましては、ビタミン剤等を用いますが、
わずかな効果しか得られない事も多いように思います。
では、東洋医学で眼精疲労を弁証して参りたいと思います。
まず、目の疲れ・視力減退・目が乾く・眩暈・不眠・
顔色が黄色っぽい又はつやがない・舌淡、(女性は)月経の色が淡く量が少ないという御方、
これは肝血不足がこの病気の犯人であることを意味しております。
なぜなのでございましょうか?
それは、目の疲れ・視力減退・目が乾くという症状は、
肝血が虚し目の滋養を失っているのかと…。
そして、眩暈は肝血が虚し、
それによって肝陽が陰の制御を受けることができずに(肝陽上亢)いらっしゃるか、
シンプルに陰血不足により頭部を養えていらっしゃらないのかの、
どちらかで御座いましょう。
そして、不眠。
そもそも漢方では「血が足りない≒不眠」と言えるくらい
血虚は不眠を多発させるものでございます。
そして、顔色が黄色っぽい又はつやがないといった症状は、
顔面部の栄養が足りないからでございましょう。
ゆえに、やはり血虚を示唆しているのかと…。
そして舌淡。所謂、舌の色合いが淡さも、
血虚が原因かと推察するところであります。
さらに、女性の月経の色が淡く、量が少ないのは
肝血が虚し経血を調整する機能が失われているからではないでしょうか?
そういえば、いつぞや初対面の患者さんに、
いかに御健康についての相談事であるとはいえ、
同僚の男性薬剤師が「生理、どうです?」とか
イキナリ訊いてドン引きされておりました…。
慣れとは恐ろしいものです…。
くれぐれも「聞き方」には細心の注意を払うべきかと…。
まずは、他の問診で肝血不足であるという疑いがほぼ確信に変わった後に、
「失礼を承知でお聞き致しますが、ひょっとして月経の色が淡く、
量が少ないといった症状はございませんか?」
といったようにお聞きになられるのがよろしいかと思います。
事実、その通りであれば高い信用が得られましょう。
そして、血虚があることが確定できたのなら、四物湯、十全大補湯、人参養栄湯、帰脾湯等々の、
補血性の処方を使うのが良いかと思われます。
そして先の証と似ているものに、漢方でいうところの
肝腎不足(腎精血不足)がございます。
目が乾燥する・物がはっきりみえない・眩暈・足腰がだるい・耳鳴り
といった症状をもお持ちの方でございます。
まず、目が乾燥する・物がはっきりみえないのは
肝血と腎精の不足により、目の潤いがなくなり、
目の滋養も少なくなってまいりますので、
視力低下をきたしているのだと思われます。
そして、眩暈・耳鳴。
こちらの原因は精血不足により頭部を栄養できないことにございます。
ここで、先の肝血不足と大きく異なります点は「耳鳴」「足腰がだるい」といった症状です。
耳や腰は腎の影響を受けやすい場所とされているのが漢方では常識とされております。
この一点だけで〝腎″と決まるものではありませんが、
このあたりが「ディス イズ 東洋医学」というものにございます。
(そもそも、西洋医学で眼精疲労を治療するときに耳鳴や足腰の状態を聞くのでございましょうか?)
ここは、杞菊地黄丸、明目地黄丸などの処方を使うとよいでしょう。
とくに、杞菊地黄丸は眼精疲労と聞いた瞬間、
脊髄反射で頭に浮かんでくるファーストチョイス…、
何はともあれ、使ってみたくなる誘惑にかられるものでございます。
ええと…そうなると、
このタイプ分けの話、意味が無いとことになりましょうか?
そのようなことはございません。
毎食前などの空腹時にお飲み頂くことを、お忘れなきよう…。
台風の影響で延期となった、
2018年10月14日(日)の山口県伝統生薬研究会の「腎陽虚」を中心とした講演は、無事終了することが出来ました。
厚く御礼申し上げます。
また、別のメーカーになりますが、
2018年11月6日、2019年3月5日(アパホテル<山口防府>)の
山口小グループ漢方研究会の講師も無事につとめられました。重ねて御礼申し上げます。
(著者 薬剤師 国際中医専門員A級合格者 山内漢方薬局 山内)