(薬剤師会に掲載したものを編集)
どんどん大気に気力が奪われていくのを感じるのは、私だけでしょうか?
そういう訳で、夏向き食材のお話をしようと思います。
皆様、アルギットニラという食材をきいたことがあるでしょうか?
私は、TVで初めて知ったのですが、
海藻「アルギット」から作った肥料で作られたニラだとのこと。
肥料は、100%海藻なので人間も食べられるということです。
ピーンと張りのあるニラが出来ます。
昔テレビでアルギットニラを使った料理、
「ニラかき玉汁」が紹介されておりました。
味を整えた出汁にニラを加え、
水溶き片栗粉でとろみをつけたのち、
卵を加えたものです。
これは卵に含まれないビタミンCをニラのビタミンCで補えるよいコンビ。
卵はビタミンC以外の栄養素はほぼ全て存在しているのに、
なぜか、ビタミンCは入っていません。
それは、ひなにビタミンCが不要というわけではなく、
鳥類は自分の体内でビタミンCを合成できるから。
そういえば、ビタミンCを体内で合成できない動物は、
人間とサルとモルモットぐらいだと、
大学で習った気がします。
そうそう、ニラの成分で忘れてならないのが「アリシン」ですね。
アリシンはラテン名がAlliumなんとかいう植物、
今回のニラや、ニンニク、
あとギョウジャニンニクなんかに入っているのをみかけます。
(ギョウジャニンニクの生息地域は、北海道から奈良県あたりまで。山口県では生えていないと思う…。)
このアリシンは、ビタミンB1であるチアミンとくっついてアリチアミンとなり、
チアミンより吸収が上昇するうえに、ビタミンB1分解酵素(チアミナーゼ)で分解されにくくもなるので、
ビタミンB1血中濃度の上昇が長時間つづく優れものです。
脚気対策にこのアリチアミンの誘導体であるプロスルチアミンをT薬品工業が開発しますが、
呼気にニンニク臭がでるので、その後、
それを改善したものが現在のフルスルチアミンということとなります。
(↑ニラ)
ところで、漢方でもニラは使われており、
ニラの種を韮子といいます。
補陽薬に分類され、とある有名な本では補肝腎、暖腰膝、壮陽、固精となっていますが、
私の漢方の先生は臨床での効能は補陽固精縮尿止帯といったところだと言っていました。
簡単に用語解説を致しますと、
補陽とは簡単に言えば補気の上位に位置するもので、
エネルギー不足を補うと同時に体を温める力をも回復させることもできます。
気よりも、もっと根源的な部分に作用させる事が期待できます。
固精とは腎の中の精気を固めて(漏れ出ないようにする)遺精・早漏を治療する方法のことです。
そして、縮尿は頻尿の改善で、止帯はおりものを止めることです。
つまり、腎陽虚によるED、腰や膝の冷痛・無力や、
腎気不固による遺精、頻尿、女性では薄く白いおりものが多いといった症状等に効果があります。
とある本には1日1~2回粉末6gずつを服用するか
韮子20粒ずつを塩水で服用するとなっておりますが、
個人的には「塩水で服用する」というのは、
形式的なのであまり重視しなくてもいいかと思います。
(腎に対応する味は鹹味、つまり塩からい味と関係が深いという事だと思いますので…)
とかく、陽虚の人は寒がりなので、
そういった方が主な治療対象となると思います。
ゆえに逆パターンの、陰虚火旺と呼ばれる暑がりタイプの方のご使用は極力お控え下さい。
陰虚とは血や水の枯渇状態です。
なので、冷やせない体質となってしまいます。
例えるなら、ラジエーターの壊れたクルマ状態です。
ところで、「ニラ」といえば、
普通は圧倒的に葉の方を摂取していると思います。
葉の方も体を丈夫にしてくれるのに役立つ食材であるのは間違いなく、
ニラは古くから、強壮作用、整腸作用、体を温める作用などの薬効が認められており、
特に、冷え症、胃弱、下痢、月経不順、無月経、ED、不妊症などにお勧めの食材です。
ただ、種にしても葉にしても、
体を温めますので、それなりに暑さが増すかもしれません…。
そういえば、鹿児島県の鹿屋市で、
葛餅や葛きりの材料となる「本葛」を取り上げていた回もありました。
葛は、いわずとしれた葛根湯に使われている葛根ということになります。
TVを見ていて、まず、驚いたのが
「堀り子さん」とよばれる葛掘りの専門家がいるということです。
番組によるとイノシシが荒らしているところに葛が埋まっているので、
そこを探り当てて、掘るのだそうです。
そして、それを伝統の製法で1年から1年半くらいの時間をかけて生成すると
やっと「本葛」の完成となります。
ちなみに、世に出回っている葛餅、葛きりの大半は
バレイショデンプンなどで「本葛」ではないそうです。
その後、珍しい「葛たたき鍋」というものが紹介されました。
たたき?カツオのたたきとかのたたき?と思いましたが、
たたきとは日本料理で葛を肉や魚にまぶす調理法をいうのだそうです。
やわらかく、旨味をとじこめたものになるとのことでしたが、
その少し前に、少々気になる説明がありました。
それは、「葛は漢方薬で、体を温めてくれる」という、くだりです。
漢方では葛根は辛涼解表薬
(汗をかかせて発散する薬物で熱を制限する方向性のもの)
に分類され、性は涼、体をやや冷やす方向に働くものです。
日本の「とある本」で葛根を辛涼解表薬に分類しているものに、
性は平(寒でも熱でもない中間)としているものを見たことがありますが、
辛涼解表薬に分類しておいて、
平というのは自己矛盾では…。
まあ、臨床の場においては、涼でも平でも大した問題はありません。
寒と平くらい違うとどうかと思いますが、
涼とは「ちょっと冷たい」くらいの差なので…。
でも、「温」ではないですね。
「温」なのは葛根ではなく「葛根湯」です。
だからといって、テレビ局に文句を言うつもりはさらさらございませんです。はい。
ところで、これは、私の個人的なイメージなのかもしれませんが、
葛餅や葛きりの原料になるものが、
体を「温めて」くれるというのはどうもしっくりこない気がします。
なんとなく、性は「涼」じゃあないのかな~。
これに賛同して頂ける方は、葛根の性を「涼」と、まる暗記する必要はもうありません。
頭の中に、涼やかな葛餅、葛きりを思い浮かべれば…、
葛根は?「涼でしょ!」。
(↑葛きり)
(著者 薬剤師 国際中医専門員A級合格者 山内漢方薬局 山内)
台風の影響で延期となった、
2018年10月14日(日)の山口県伝統生薬研究会の「腎陽虚」を中心とした講演は、無事終了することが出来ました。
厚く御礼申し上げます。
また、別のメーカーになりますが、
2018年11月6日、2019年3月5日(アパホテル<山口防府>)の
山口小グループ漢方研究会の講師も無事につとめられました。重ねて御礼申し上げます。