美しき紫の葉

(薬剤師会に掲載したものを編集)

京都大原三千院♪という有名なフレーズの歌がございますが、
大原は、「しば漬け」の発祥の地だそうです。

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といわけで(どういうわけ?)
今回は、しば漬けのグルメ情報に
漢方医学的「紫蘇葉しそよう」の効能を添えて、
山口県よりお送りしようかと思います。

ちなみに、私が見ている「とあるグルメ番組」の
ナレーションの水樹奈々は
代々木アニメーション学院の卒業生だそうです。

昔、私がノベルスの勉強のため
東京アミューズメントメディア総合学院と
どっちに行こうか悩んだ所だったりします。
ノベルス科けっこう楽しかったなぁ~。

まあ、そんなことは、ど~でもいいのですが…。

話を戻しますと、
なんでも、しば漬けは敗れた平家の平徳子が
建礼門院(けんれいもんいん)(さん)という尼となったところ、
周囲から多くの野菜をお供えされ、
なんとか保存できないものかと考えて、
漬物にしたことが始まりだそうです。

そこで、建礼門院(けんれいもんいん)紫蘇の美しい紫の葉を、
シバ(紫葉)と呼んだのだそうです。

因みに、本場である京都では、
しば漬けはキュウリではなくナスをつかったものをいいます。

ナスを紫蘇と一緒に乳酸発酵させて作るので酸味がきいて、
キュウリのものとは全く違う味になるそうです。

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そうそう、そういえば、
番組で紫蘇ジュースの作り方も紹介されておりました。
紫蘇をぐらぐらと沸騰した湯に入れ煮出し、
紫蘇を取り除いて、砂糖とレモン汁を投入したのち、
炭酸水で割るそうです。

極めて爽快な美味だとのこと。

因みに、レモン汁を投入すると
色が紫から赤に劇的に変化するのですが、
これはレモンに含まれるクエン酸が「酸」であるために、
紫蘇に含まれるアントシアニンという物質が、赤く変わるからです。
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(ブルーベリーにもアントシアニンは入っています)

ちょうど、リトマス試験紙のように酸性で赤色
中性で紫色アルカリ性で青色になります。

リトマス試験紙が
どうしても手に入らないときにとっても
役立つ未曾有の豆知識です。

そして、西洋医学的には
シソはルテオリンという成分を含んでいるので、
アレルギー疾患に有用として
健康食品として利用されております。

ルテオリンは、
抗アレルギー・抗炎症作用を持つといわれ、
花粉症やアトピーといった
アレルギー症状を押さえる効果を発揮します。

これは、ロイコトリエンを作り出す際に必要な酵素を
ルテオリンが阻害するものと考えられています。

では、この紫蘇ジュース、漢方的にはどんな効能
が期待できるでしょうか?

紫蘇ジュースの写真

(↑紫蘇ジュース)

まずは、「発汗解表(はっかんげひょう)行気寛中(こうきかんちゅう)
といったところでしょう。

つまり、外感風寒(がいかんふうかん)(冷え型のカゼ)
で胸が苦しい・悪心・嘔吐などの症状(胃腸型の感冒に相当)
に効果があります。

これに対する典型的な処方例が
香蘇散ではないでしょうか?

香附子・生姜・陳皮・「紫蘇葉」・甘草で構成され、
胃腸型感冒」に対して作られた処方ですが、
広く脾胃気滞(ひいきたい)に応用出来ます。

けれど、 表寒証の重症には効果は期待できません。

何故なら、麻黄などの発散する力の強い生薬が
入っていない
からです。

しかし、それ故に、葛根湯や麻黄湯を服用すると
胃腸障害を起こすような人に
使えるというメリットがあります。

神経性胃炎・胃炎・胃腸神経症などで、
脾胃気滞(ひいきたい)を呈する方や
胃腸型感冒の方に使用いたします。

ちなみに、脾胃気滞(ひいきたい)とは胃腸の機能低下が、エネルギーの停滞によって
起こっている状況を言います。
気滞では、エネルギーはちゃんとあるのですが、
何らかの要素によって流れることが出来なくなって問題起こしている事を言います。

それに対して、気虚はエネルギーそのものが足りない
という所が大きく異なります。

他に、魚介類のじんましんに対しても
使用することができます。

これは、紫蘇葉に「解魚蟹毒」の効果があるからです。

これは、魚や蟹の毒消し効果のことで、
それ故に、魚介類での中毒による
嘔吐・下痢・腹痛などにも使えます。

そもそも、シソの名の由来は
中国、三国時代にカニをむさぼり食べて
食中毒にかかった少年を見た旅の名医「華佗」が
シソの葉でそれ治療したことによるそうです。

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なんでも、食中毒で、肌の色が
色に変色し、
死にかけたときに、
シソの葉を煎じて飲ませたところ、
命がったことから「紫蘇(しそ)」と
名付けられたという話です。

まあ、紫蘇の逸話としては、
建礼門院さんのいう「美しき紫の葉」の話の方が
私は好きです。

ところで、突然ですが皆様
漢方薬と民間療法ってどのくらい「違い」が
あるように感じられていますか?
わたし的には、民間療法は学問的体系が無かったり、
効果が「個人の感想」だったりと、
不安な部分があるモノもありますが、
なかには期待できるモノも
沢山あるやに思います。

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そもそも、民間療法で使っていた生薬たちに
学問的体系を与え、
有用なものをピックアップしていったものが漢方薬といえます。

まぁ、近くて遠い存在とでもいいましょうか…。
ところで、なぜ、今回こんなことを突然言い出したかというと、
前にレモン汁で紫蘇のエキスの色が
変わるお話をしたからです。

何故、色が変わるかといえば、
レモン汁のなかにクエン酸が含まれているからでした。

クエン酸(citric acid)は柑橘類などに含まれ、
日本薬局方収載品であり、薬局などでも市販されていますが、
あんまり、「クスリ」という感じがしない気がします。

そうはいっても、クエン酸は、
生体内でクエン酸回路の中心的存在であり、
クエン酸回路が生命の根幹的なエネルギー源であることは、
(薬学部出身者では)揺るぎないものです。

ところで、糖尿病の治療において、
漢方では六味地黄丸なんかを使ったりしますが、
なかなか血糖値自体を下げられないことがよくあります。

六味地黄丸にふくまれる熟地黄・山薬・沢瀉は、
血糖降下作用を少し持っていると言われてはいますが、
正直、劇的に下がるというものではありません。

六味地黄丸は腎の陰の不足を中心に補うことで、
口が渇いたり、尿量がふえたりする症状を改善できますが、
はっきり血糖降下作用があるのかと言われれば、
答えはノーです。

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(↑血糖測定器です)

そもそも、はっきりそんなものがあったら、
高血糖でない方は低血糖症状を起こしますので、
六味地黄丸は飲めないという事になりかねません。
(血糖降下作用が無くて幸いです…)

その昔、中国衛生部(日本の厚生労働省の様なところ)が、
違法に医薬品成分を含有する
保健食品を摘発したことがありますが、
その中にSU剤のグリベンクラミド
(スルホニルウレア類インシュリン分泌促進薬なので血糖値がダイレクトに下がります)
が入っていたものが存在しました。

さぞ、よく血糖値が下がったことでしょう…。

そんな恐ろしいものに手を出す前に、
試してみたいクエン酸。

本屋さんに行くと健康コーナーに
クエン酸の健康効果をうたった本が並んでいたりしますが、
ホントに効果があるか疑わしいと
思われているかたも多いのではないでしょうか?

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私自身もその一人でしたが、
出会ってきた患者さんの中に
クエン酸で血糖値が劇的によくなった方を何人も見て、
信じざるを得なくなりました。
医師の治療を受けている方は、
医師と相談してから使用するようにして下さい。
(お決まりの文句でが…)

境界型糖尿病の方で、
「まずは食事・運動に気を付けて下さい」
といわれている方などは、
特に試してみる価値が高いと思います。

500g入りで日本薬局方のクエン酸が
1500円位と安価です。

食品添加物としてのクエン酸などは1000円切っているものも見かけます。

効果が無くても、ガッカリするような額ではないかと思いますので、
苦情はご遠慮いただいております。

レモンの成分で大事故にはまずならないかと…。

ちなみに、とある本によると1日15g、1日6回に分けて飲むとよいのだそうです。

いわゆる、お茶がわりです。

ただ、胃腸の弱い方は少なめにしたほうがよいでしょう。

漢方も併用すれば、症状も楽にできるのでベターかと思われます。

クエン酸回路イラスト

前でクエン酸の効果(?)に少しふれましたが、まだまだちがう側面もあるようです。

それは、いわゆる血液サラサラ効果です。

昔、1日10gのクエン酸を2週間飲んだのち血管に注射針を刺し、
血の流れる速度が変わるかどうかを検証したことがあります。

結果は、採血してくれた臨床検査技師さんが思わず
「おお!これは元気よく出る!」というコメントでした。

もちろん、被験者は私自身。
統計学的に、n=1(症例数が1人だけ)且つ、
こんな曖昧なデータはなんの意味もないですが、
おそらく何千、何万と採血されてこられた
臨床検査技師さんがいうのですから、
だいぶ普通とは異なったのでしょう。

因みに、その時以外の採血で
そんなコメントをもらったことはありません。

クエン酸塩は血液凝固因子であるカルシウムイオンとキレート結合し、
採血時の抗血液凝固剤として使用されると聞きますので
当然なのかもしれませんが…。

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そんなクエン酸、血流をよくする漢方薬と併用すると、
もっといい効果が出せそうな気がします。

ここで、身近な漢方薬の中で、血液サラサラ効果をもつものと言えば、
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)あたりが有名どころではないでしょうか?

もっと良いものがあるよ、
と言われる方も当然いらっしゃると思いますが、
某有名医療用漢方製剤の範疇では
妥当なのではないかと思います。

ところで、私は、常々思っていたのですが、
この桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)って変な薬です。

まず、どこが変かというと、「名前」です。

そんな殺生な…と言われそうですが、
名前からバッサリ否定です。

そういう訳(?)で、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)裁判の開廷です。(リーガ〇・ハイ ふう)

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なぜ、バッサリ全否定なのかと申しますと、
まず、桂枝茯苓丸には、桂皮・芍薬・茯苓・桃仁・牡丹皮が入っております。

そして、桂枝茯苓丸の主たる効能が何かと申しますと、ズバリ「活血」、すなわち血流の改善にあります。な・の・に、何故「桂枝茯苓丸」なのでしょうか!桂枝!茯苓!こんなものに活血作用はナッシング!実際に活血しているのは、それ以外の芍薬・桃仁・牡丹皮であ~ります。な・の・に、桂枝茯苓丸!実情を反映したネーミングとは極めて言い難いものであります!さ・ら・に、お気づきの方もおられるでしょうが、桂枝茯苓丸の中身を再度ご確認下さい。桂皮・芍薬・茯苓・桃仁・牡丹皮、桂枝茯苓丸であるのに、桂枝が入っていません。入っているのは桂枝ではなく、桂皮です。つまり、処方名のわずか2文字目に、あ・や・ま・り、があるという事です。入っているのは桂皮なのだから、正しくは桂皮茯苓丸なのではないでしょうか!しか~し、日本薬局方には桂皮はあっても、桂枝はない。だ・か・ら、桂皮が入っているとしながら、名前は桂枝茯苓丸。このような矛盾が許されていいのでしょうか!そもそも、中医学では桂皮の基原植物であるケイ、いわゆるシナモン、いわゆるCinnamomum cassia Blumeを部位によって桂枝と肉桂にわけて用いております。桂枝は解表薬、主に発汗をつかさどる薬に、肉桂は温裏薬、主に体を温める薬に分類されており、両者には大きな隔たりがあります。また、中に入っている芍薬。この表記もいかがなものでありましょうか。活血を主体とするのは赤芍、補血を主体とするのは白芍。当然、活血を目的とした方剤なら赤芍を用いるのが必然!これらを、十把一からげにして語ることなど考えられません!よって、これらのことより桂枝茯苓丸などというものを認めることは、有り得ないことなのです!

異議あり!異議あり!………。
今日は、これにて閉廷!(桂枝茯苓丸好きの方ごめんなさい m(__)m

(著者 薬剤師 国際中医専門員A級合格者 山内漢方薬局 山内)

台風の影響で延期となった、
2018年10月14日(日)の山口県伝統生薬研究会の「腎陽虚」を中心とした講演は、無事終了することが出来ました。
厚く御礼申し上げます。
また、別のメーカーになりますが、
2018年11月6日、2019年3月5日(アパホテル<山口防府>)の
山口小グループ漢方研究会の講師も無事につとめられました。重ねて御礼申し上げます。