鹿茸について

台風の影響で延期となった、
10月14日(日)の山口県伝統生薬研究会の「腎陽虚」を中心とした講演は、
無事終了することが出来ました。
厚く御礼申し上げます。
また、別のメーカーになりますが、
11月6日(アパホテル<山口防府>)の
山口小グループ漢方研究会の講師もさせて頂きました。

腎陽虚の弁証 鹿茸を中心に

 

まず鹿茸とは?

 

【名称】

鹿茸(ろくじょう)

 

【分類】

補陽薬 助陽薬と分類してある本も

 

【出典】

神農本草経 中品

 

【成分】

コラーゲン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、蛋白質などなど

 

【処方用名】

鹿茸、鹿茸片、鹿茸血片、鹿茸粉片、鹿茸粉

 

【基原】

シカ科(Cervidae)ニホンジカCervus nippon Temminck 及びその変種マンシュウジカ var. mantchuricus Swinhoeまたはマンシュウアカシカ(赤鹿)C. elaphus L. var. xanthopygus Mil.-Edw.のまだ角化していない幼角(ふくろづの)。前者を梅花鹿茸(ばいかろくじょう)、後者を馬鹿茸(ばろくじょう、バカタケではありません)という。

日本薬局方には収載されていませんので、規格に多少のバラツキが考えられるのではないでしょうか。

 

【西洋医学的効能】

強精、強壮、健胃

 

【薬理作用】

発育・成長促進作用、造血機能促進作用、強心作用、子宮収縮作用

 

【性味】

味は甘・鹹、性は温

 

【帰経】

肝、腎

 

【代用品】

〇鹿角

雄鹿の骨質の角。味は鹹、性は温。鹿茸の代用になり、補益力は劣るが比較的安価です。一般には虚労に用いるのですが、活血祛瘀の作用もあるので、慢性の難治性炎症や膿瘍にも使用します。用量は5~9g。

 

〇鹿角膠

鹿角を煎じつめて作ったもの。味は甘・鹹、性は微温。補益性以外に止血の作用があるので、慢性疾患による羸痩・下半身の無力感・吐血・鼻出血・不正性器出血・血尿並びに再生不良性貧血に使用します。補養力は鹿角より強めで、鹿茸よりは弱いですが、服用した時消化吸収されやすいです。5~9gを溶かして服用します。

 

〇鹿角霜

鹿角を煎じつめて膠にした残渣である。補陽の効力は鹿角より弱いですが、しつこくなくて消化されやすいです。陽虚でうすい帯下が多量に出るときなどに使用します。容量は6~9g。

また鹿の角を粉末状に砕いたものをこう呼ぶこともあるそうです。しかし、これはここだと鹿角の末という事になるかと思います。

 

【処方】霊鹿参、亀鹿霊仙膠など

 

【漢方や中医的な効能】

補腎陽、益精血、強筋骨

 

【使用上の注意】

陽気の昇動による眩暈、目の充血、陰液の損傷による出血を避けるために、一般に少量から始め、次第に増量し、急に多量に服用しない方がいい。

熱象があるとき(血分に熱がある、胃火旺盛、肺に痰熱がある)・感染症状が残っているとき(外感未清)・元気が旺盛なもの・陰虚陽亢には禁忌。

一般に高血圧には使用しない方がよいが、眩暈・四肢のしびれをともなう腎性高血圧には、杜仲・牛膝・鶏血藤・山茱萸などを配合して使用する。また、淫羊藿は補陽薬なのに血圧が下げられる有用な生薬です。

 

【用量】0.5~3g。1.5gぐらいを使用することが多い。多量に服用すると鼻出血や頭重を生じやすいので、5~6g以上は使用してはならない。

 

【臨床応用】

①腎陽不足による四肢の冷え、ED、不妊症、頻尿、腰や膝がだるく痛む、眩暈、難聴、倦怠無力感などに用います。

 

ここで、そもそも腎陽不足とは何かと申しますと、陽虚と言われる気虚がより深刻になっている状態が腎において起こっている状態のことを言います。

腎陽の不足は、寒証の症状を呈し、手足が冷える、多尿、頻尿、夜間尿、寒がり、四肢の冷え、浮腫、尿の色は澄んで量は多い、腰が曲がったり足腰が弱くなったりする、排尿の勢いが悪い、頻尿、夜尿、失禁などの排泄異常などの症状がみられます。また、男性では早漏、インポテンツや腰に力が入らないといった大変由々しき事態を招きます。

こういった状態に鹿茸を使用すると、腎陽を補うことでこれらを治療できる可能性があります。

効力を増強するために、補気養血益精の薬を配伍して使用することもできます。例えば、参茸固本丸。

しかしながら、参茸固本丸は日本ではあまりなじみがないかと思います。

組成は人参,鹿茸,天門冬,麦門冬,生地黄,熟地黄で、効能は生精添髄,壮筋健骨,大補気血,固本培元,久服延年となっています。

(日本語版の資料が見当たらなかったので中国語版を訳したものになっています)

「固本培元」とは調べたところ人間の根源的意思を含む生命力の源を強化して、安定化を図るといった意味と解釈しておけばよさそうです。

主治は「諸虚百損,腰膝酸軟,歩履乏力」で、要約させていただくと、「諸々の虚によって様々な障害が発生して、腰や膝に無力感を伴った機能障害が発生し、歩く力が著しく低下した状態」に用いるということになります。

 

この方剤は腎陽虚であることが間違いないなら、

霊鹿参+八味地黄丸

で同等の効能が期待できるのではないかと思うところです。

天門冬,麦門冬は全然入っていませんが要点は抑えていると思います。

 

②精血が不足し、筋肉に力がない、あるいは小児の発育不良、運動能力の発達不良、歩き始めるのが遅い、泉門の閉鎖が遅いなどに用います。

「腎は精を蔵し、骨を主る。肝は血を蔵し、筋を主る」といわれ、鹿茸は、肝腎の精血を補うことができるので、筋骨を強める効能もあります。

 

ここで、腎陽不足と似ている所もありますが、区別しておかなければならない「腎精不足」といったものがあります。

まず、腎精とは、狭義では、生殖に関係する精を指し、不足すると、無月経、子宮発育不全、排卵異常、不妊、無精子症、精子過少症、インポテンツ、早漏、精力減退などの生殖機能異常の症状を呈します。

広義では、人体の成長、発育活動を維持する精微物質を意味し、不足すると、知力の減退、骨格の発育異常、耳鳴り、眩暈、骨粗鬆症、歯が抜ける、白髪、脱毛などが挙げられます。子供では、知能の発育不全などが見られます。

 

白髪、脱毛を見ると血虚を考えられる方もいらっしゃると思います。大変真っ当なお考えだと思います。しかしながら、なぜか効果が不十分だと感じられる患者さんはおられないでしょうか?補精の方法論での治療、お忘れではございませんか?

耳鳴り、眩暈。効果不十分な方いらっしゃいませんか?私は「意識的に注意(変な日本語ですが)」して当たっておるつもりですが、見落としがちなのではないかと思う次第です。

 

また、鹿茸が精血を補える性質は非常に貴重なもので、中医の先生から再生不良性貧血にほぼ唯一効果が期待できるものと教えてもらったのがとても印象に残っています。当然、当帰に代表される補血剤の併用は必須となります。

また、漢方の大原則に反しますが、陽虚でなくても鹿茸を再生不良性貧血に用いたい場合が存在するのではないかと思います。

私としては、熱症状は知母・黄柏などで抑え!陰虚には十分な補陰剤を加え!肝陽上亢からくるのぼせ等は竜骨・牡蛎などで抑えてでも!生命維持に重大な問題を生じる再生不良性貧血に、鹿茸を用いる場面は存在すると考えております。ただし、用量調節は考えないといけないと思います。

 

③女性の虚寒による白帯過多、不妊症、不正性器出血などに用います。

鹿茸は肝腎を補い、固摂することができます。

ここで、固摂ってなに?という方もいらっしゃるかもしれませんので、ちょっとだけご説明しておきます。

固摂とはよく「漏れ出なくする作用」と表現されます。

まあ、そうなのですが、何となく分かりにくくはありませんか?

私見で恐縮ですが、本来なんのエネルギーも作用していなければ、物体は確率に従って分散します。また、地球上であれば重力が働いているので下に落ちます。これがなんのエネルギーも働いていないときの通常の状態です。

つまり、この通常の状態で無いのは生体エネルギーがこれに逆らったお仕事をしてくれているからです。この不十分さを補うのが補気であり、その上位作用の補陽です。

 

④心不全に用います。

特に鹿茸は代償不全の心臓に対する作用の方が顕著です。ちなみに、人間の体はその危機に対応して、心拍出量の低下をくい止める手立て、つまり代償機構を備えています。この機構は、少し弱った心臓でも、十分な血液を送り出すために手足の血管を収縮させて、その分、心臓や肺をめぐる血液を増やす方法などで、ポンプの中の血液を増やして送り出す血液量を保とうとします。結果、心臓は拡大することになります。もしくは、1回の拍出量が減った分、拍出回数(脈拍数)を増やしたりします。質より量といったところです。

これらの心臓の拡大や脈拍数の増加、さらに指令系統の指令にもとづく全身の変化は、心拍出量が減るのを防ぐために一時的には有効ですが、長期的にはかえって心臓の負担となり、心臓の働きはますます低下し、代償できなくなって、はっきり症状として表れます。

この場合は尿量が減少する事が多いです。循環血液量が低下し、各臓器に血液不足が生じるので、腎臓での血流量も低下するので尿量は減るのです。

 

⑤瘡瘍が潰れてから長く収斂していない、(陰証に属する)化膿症に用います。

鹿茸は陽気を温補し、内に陥入した邪毒を外に追い出す効力があります。ズバリ、代表処方は陽和湯です。

 

陽和湯(ようわとう)

【組成】

熟地黄30g、肉桂3g、麻黄2g、鹿角膠9g、白芥子6g、姜炭2g、甘草3g

 

【用法】

水煎し、鹿角膠を溶かし肉桂末を入れて、分3で服用する。

 

【効能】

温陽補血、散寒通滞

 

【主治】

陰疽

慢性に経過する化膿傾向のない腫脹・潰瘍・フィステル(歯科領域でも見られる)・しこり・寒冷膿瘍などで、熱感、発赤がない・痠痛無熱、皮色不変、口中不渇、舌質淡・脈沈などを呈するものに用います。

 

【方剤の解釈】

本方は主に営血本虚、寒凝痰滞、痺が肌肉、筋骨、血脈、関節に詰まる等による陰寒証の陰疽を治します。

方中の熟地黄は温補営血。

鹿角膠は填精補髄、強壮筋骨をし、血肉有情の薬で、熟地黄を手伝って養血をする。

寒凝痰滞は温通経脈をしないと、寒凝を除けないので、炮姜、肉桂で温中有通をする。

麻黄は開腠理、達表をする。

白芥子は皮裏膜外の痰を除き、温補薬と共用して、補いながら膩滞を残さないといった狙いもあります。

生甘草は解毒をする。

全体としては、一方では営血の不足を温補し、一方では陰凝寒痰を解散し、破陰回陽、消寒化痰を果たしています。

【注意】

本方は紅腫熱痛の陽証の癰瘍、あるいは陰虚有熱、すでに潰した陰疽等には適しません。

 

⑥神経衰弱や病後の衰弱に用いる。頭がふらつく、耳鳴り、腰がだるい、元気がない、四肢に力がない、消化不良、尿量過多などの症状があるものに対し、強壮作用があります。

(著者 薬剤師 国際中医専門員A級合格者 山内漢方薬局 山内)