漢方で魔法瓶を開ける

(薬剤師会に掲載したものを編集)

台風の影響で延期となった、
10月14日(日)の山口県伝統生薬研究会の「腎陽虚」を中心とした講演は、
無事終了することが出来ました。
厚く御礼申し上げます。
また、別のメーカーになりますが、
11月6日(アパホテル<山口防府>)の
山口小グループ漢方研究会の講師もさせて頂きました。

黄芩甘草桔梗石膏白朮大黄荊芥山梔子芍薬川芎当帰薄荷防風麻黄連翹生姜滑石芒硝

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おおっと!なんのお経?と思われた方ごめんなさい…。
(ギャーテーギャーテーハラギャーテー…)

今回はちまたで目にする防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)のお話です。

そういえば、コッコ〇○錠なんて商品もみかけますね~。

とかくダイエット面が強調される漢方薬ですが、
何はともあれ中に入っているものを
チェックしていきましょう。


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この処方には結構な数の薬味が入っているので、
覚えるのは、まぁひと苦労です。

とゆ~か、一度全部覚えても
使い続けていなければ、
数年でチラホラ記憶から消えていきます。

ちなみに、実践的には大した問題ではないのですが、
上海科学技術出版(中国語版)の本には
17()で書いてあったりします。(漢方では生薬を1味、2味と数えます)

おや、数が少々違うような?
(お時間にゆとりのある方は数を確認してみてください)

種をあかせば、生姜(しょうきょう)以外は粉にして、469027
それを生姜と一緒に飲め
とか宣明論(せんめいろん)に書いてあったりします。

合計で18味というわけです。

つまり、生姜が最初から入っている状態で書かれているかどうか
というだけの問題です。

以前、国際中医師(ちゅういし)試験指南を友人にさせら…


もといお手伝いさせて頂ける栄誉にあずかりしときには
「テスト」なのでこういった細かいことも気にしたものです。

まぁなんていうか、
私なんかにはすぎた友なので、
たまには借りをかえしとかんと…。

ところで、ご存知の通り防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は肥満症に「も」
用いる漢方薬です。

ほかにも、
体の熱をさまし、
病因を発散させるような働きがあります。

漢方ではこういうのを表裏双解剤(ひょうりそうかいざい)といいます。

また、体の水分循環を改善し、
便通をつける作用もあります。

日本漢方流だと、体力のある太鼓腹の肥満タイプで、
便秘がちの人に向くと言われています。

実際、肥満症,便秘,尿量減少,むくみ,のぼせ,肩こり
などに用いられ、また、そのような症状をともなう
高血圧症や腎臓病,糖尿病などにも使えます。

大黄(だいおう)なんかのせいか、
人によっては胃の不快感や吐き気、腹痛や下痢などを
起こすこともありますので注意が必要です。

特に、下痢はだいぶ「主作用」なので
量的ミスか、この処方を選んだ事自体が「間違い」であるのでは…
ないかと思います。

そういえば、大黄の成分は熱すれば熱するほど壊れやすいと
よくいろんな本に書いてあって、
後下(こうげ)」といって、後のほうから煎じ始めると良いとの事ですが、
実験してみると大黄の下剤成分であるセンノシドAは
普通の煎じ方でもあまり壊れていないという話です。

(ちなみに)センナにも同じセンノシドAが入っております。

けれど、便秘がひどいからといって
センナのお茶をあんまりグラグラ長時間煮詰めたりするのは、
当方ではお勧めしておりません。

でも、防風通聖「」は散剤です。
散剤は粉ですので、
本来は煎じて飲むわけではありません。

しかし、石膏とかは特に、煎じて飲みたいところです。(固いので…)

エキス剤の存在は有難い事ですが、
散剤のエキス剤とは何か変な感じです。

まるで「燃えない火」とでもいうか、
それ自体、矛盾を内包している気がします。

よくよく考えてみればこの防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)、なかなか奥が深いものです。

まあ、突き詰めれば、いかなる物も奥深いものなのですが…。

そういえば、うつ病の方が、
回復期に入ると急に元気になって過食したり、
抗うつ薬の副作用で食欲が増進したりして、
肥満傾向になることがあります。

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そういった場合に、
病院で防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)を用いることがあるようです。

要は、肥満改善効果に加えて、
ノルアドレナリン(闘争反応などを生じさせる興奮物質)
放出を増強することが、
うつ病患者さんにとって「やる気」の低迷を
回復させる効果があるのだというのです。

肥満改善効果に加えて、
「やる気」も向上もできるなら、
一石二鳥というやつです。

しかしながら、漢方では「うつ」などの状態を、
気力が失せていることから
気虚」状態であると考えております。
肝気鬱結(かんきうっけつ)など、他のパターンもありますが、今回は省略させていただきます)

これには朝鮮人参に代表される「補気剤」を使用して、
(文字どおり)気を補う事が基本となります。

補い終わるまで、
劇的な効果が見られないこともありますが、
補い終われば
完治が期待できます。

気を焚火の火だとすれば、
火を燃やす為に必要なのは「薪」です。

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これ増やすの 「大」 基本。

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)に含まれている麻黄(まおう)などの温薬も
火を燃やすことができるのですが、
薪を全然くべずに、ウチワでバタバタと扇ぐ
ようなやり方で燃やすことになります。

赤字体質を改善せず、借金で埋める状態に似ているかもしれません。

それだと、一時的には良いかもしれませんが、
本質的には悪化します。

最終的には「燃えない火」になります。

いわゆる、「非常手段」なので、
どうしてもという場合を除き、使用はお控え下さい…。
ご利用は計画的に…。

西洋医学においても、
「インシュリンを出そうとしても、
出すことができないほど膵臓のβ細胞が疲弊した状態」
にある糖尿病患者さんに、
SU剤(インスリンの分泌を促進させる薬)
で無理矢理インシュリンを出させる治療法が
過去ずいぶん行われてきましたが、
最近はあまり行われなくなってきております。

なぜでしょう?
答えは同じ風に吹かれているのではないのでしょうか?546463

因みに、近年言われ始めた強化インスリン療法というものがあります。
これは、外からインスリンを補い、
膵臓を休ませる治療法です。
休みを与えてその間に膵臓機能を回復しようというものです。
昔は、インシュリン注射になったらもう終わりだといった
考えもありましたが、
比較的早くインシュリン注射を始めた方が
インシュリンをやめれる確率が高くなるので
その方がお勧めであることが分かっております。

ところで、鬱の話をしたので、
ついでにご紹介しておきますが、
「マンガで分かる心療内科」(少年画報社)
という本があります。

勉強になることもうけあいですが、
抱腹絶倒の面白さです。
よかったら読んでみてください。

そういえば、漢方大手のT社によると、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)脂肪燃焼効果は、
麻黄(まおう)がエフェドリンをを多く含む事と、
甘草かんぞう荊芥(けいがい)連翹れんぎょうにはカフェインより
2.5倍強力なホスフォジエステラーゼ阻害作用が
ある事から起こるそうです。

ちなみに、
ホスフォジエステラーゼとはcAMPと呼ばれる物質などの、
環状リン酸ジエステルを加水分解する酵素で、
それを阻害すると分解がおこなわれない分、
それに関与する物質が長くその場にとどまることになります。
つまり、この場合は興奮作用が持続することになります。
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そして、それによって熱産生組織である褐色脂肪細胞は活性化され、
白色脂肪組織の脂肪分解も促進されます。

まとめると、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
「白色脂肪細胞での脂肪分解作用に加えて、
褐色脂肪細胞を活性化させ、脂肪燃焼効果を発揮する
という明確な薬理作用を有する薬剤である」とのことです。

なんでも、脂肪細胞表面にはβ3レセプターが存在し、
麻黄と結合することで脂肪の燃焼を促し、脂肪の分解・燃焼
に力を発揮するのだそうです。

まぁ、そうなんでしょうけど…。

(魔王…じゃなかった麻黄)

それだったら、葛根湯とか、
もっと麻黄がいっぱい入った処方でいいんじゃないかな…
などと思ったりします。

そういえば、いつぞや山口県で行われた薬の勉強会で
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は試したけれど肥満には効かない!」
と言い切られた(大学教授の)講師の先生が
いらっしゃいました…。
なんと勇敢な…。T社の方、お気の毒さまです…。
でも、やっぱ麻黄の量が少ないからじゃないかな…。

コホン。話を

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」=「表裏双解剤(ひょうりそうかいざい)

に戻しますと、
本来(漢方的には?)、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)を使用するのは
表裏具実(ひょうりぐじつ)という状態です。

現代的には感染症で発熱している状態の1タイプと言えるでしょう。

しかし、この表裏具実(ひょうりぐじつ)という言葉に、
抵抗がある方もいらっしゃると思いますので、
少々バラしてみます。では…

表裏具実(ひょうりぐじつ)裏実熱(りじつねつ)表寒(ひょうかん)
でいかがでしょうか?

すなわち、症状は

口が苦い・渇く、目の充血、のどが痛む、いらいら、腹部膨満感(ぼうまんかん)、便秘、尿が濃いなどの
裏熱(りねつ)の症状

悪寒、頭痛、無汗、咳嗽、呼吸困難などの
表寒(ひょうかん)の症状

そして、それにより普通かなりの高熱を伴います。

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ちなみに、
舌質は(こう)、舌苔は黄厚膩(おうこうじ)
脈は滑数~弦数です。
(この辺は、上級者向け…詳細略です)

ここで、何故かなりの高熱を伴うのかというと、
体内に炎症や代謝の亢進で熱が高まっているところに、裏実熱
寒冷や感染にさらされて
表在血管の収縮や汗腺閉塞を起こし、表寒
体内の熱が逃げ場をなくしてこもってしまうからです。

そういうわけで熱の上昇はかなりのものになります。

わたし的には、
「ふたの開かない熱湯入り魔法瓶」
(!)といったところでしょうか?

これを治療するには、
蓋を開け、中身を捨て、なかを冷やす
ということになります。

これを実現するのが、「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」です。

では、どう実現させているのでしょう?

大まかには、苦寒薬による清熱作用(熱を冷やす)が主体であり、
麻黄などによる発汗解表(発汗させて解熱させる)
は補助的効能だということが前提です。

ちなみに、現代漢方の防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)の応用としては、
祛風清熱の作用を持つので、
風熱壅盛で生じる皮膚化膿症、蕁麻疹、痔核などにも
有効だと考えられています。

しかしながら、「ダイエット効果」については、
ある本では「試用してもいい」とか書かれていたりします…。

さて、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)の組成を見てみましょう。

生薬(赤は温薬(おんやく)・青は寒薬(かんやく)・黒は平薬(へいやく))とその作用は、

荊芥(けいがい) 防風(ぼうふう) 麻黄(まおう) 薄荷(はっか)(発汗により解熱させる)
大黄(だいおう) 芒硝(ぼうしょう)熱を便とともに出す)
山梔子(さんしし) 滑石(かっせき)(熱を小便に排泄させる)
石膏(せっこう) 黄芩(おうごん) 連翹(れんぎょう) 桔梗(ききょう)(体内の熱を冷ます)
当帰(とうき) 芍薬(しゃくやく) 川芎(せんきゅう)(血を補い、血を滞らないようにする)
白朮(びゃくじゅつ) 生姜(しょうきょう) 甘草(かんぞう)(胃腸機能を改善する)

といったところでしょうか?ここで、

①「発汗により解熱する」生薬たちが開かなくなった魔法瓶の蓋をこじ開け
②「熱を便とともに出す」と③「熱を小便に排泄させる」生薬たちが中のお湯を捨て、
④「体内の熱を冷ます」生薬たちが直接に魔法瓶内に氷を放り込んで冷やし、
⑤「血を補い、血を滞らないようにする」生薬たちが新しい新鮮な血液を補給し、
⑥「胃腸機能を改善する」生薬たちが、今まででてきた生薬が胃にさわったりすることがないようにする

と、いった要領(?)で「ふたの開かない魔法瓶」問題

が解決できます。だいぶ、解明されてきました。

ここでちょっと防風通聖散をDrug design(ドラッグ‐デザイン)
してみます。

ちなみにDrug designとは「医薬品開発方法の一つで、
既知の化学物質の構造と薬理作用の関係に関する知識をもとに、
その構造の一部を改変して
新しい効果をもつ物質を開発する方法のことです。

ええっ!漢方で化学構造をイジるの?

いえいえ、漢方は何千年も昔に始まったものなので、
そんなことやろうったって出来るわけありません

その代わりと言っては何ですが、方剤の中に入っている
生薬を加えたり減らしたりする
」というものがございます。

中国では中医師が大抵「加減法」を用いて、
その人にピッタリの形に煎じ薬の調整をして下さいます。

例えば、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)の加減は、
悪寒・頭痛などの表症無し、もしくは発汗有りなら荊芥・防風・麻黄は取っ払い、
便通があるなら、大黄・芒硝を減らし、
頭痛・目の充血がつよければ菊花(きっか)牛蒡子(ごぼうし)などを加え、当帰・芍薬・白朮などはナシ…
といった具合です。

ここで、あまり考えたくはないのですが、
某国との関係悪化で
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使用可能な生薬数に制限がかかる事態になったらどうしましょう?
う~む…、「なんとか」するしかないですね…。

そうそう、先ほど、

①発汗により解熱させる
荊芥 (祛風解表(きょふうげひょう)、止血)
防風 (祛風解表、勝湿、止痛、解痙)
麻黄 (発汗、平喘、利水)
薄荷 (疏散風熱(そさんふうねつ)、清利頭目、利咽、透疹)

②熱を便とともに出す
大黄 (瀉下攻積、清熱瀉火、解毒、活血祛瘀)
芒硝 (瀉熱通便、潤燥軟堅、清熱消腫)

③熱を小便に排泄させる
山梔子 (瀉火除煩、清熱利湿、凉血解毒)
滑石  (利水通淋、清熱暑熱)

④体内の熱を冷ます
石膏 (清熱瀉火、除煩止渇)
黄芩 (清熱燥湿、瀉火解毒、止血、安胎)
連翹 (清熱解毒、清癰散結)
桔梗 (開宣肺気、祛痰、排膿)

⑤血を補い、血を滞らないようにする
当帰 (補血、活血、止痛、潤腸)
芍薬 (白芍は養血斂陰、柔肝止痛、平抑肝陽・赤芍は清熱涼血、祛止痛)
川芎 活血行気、祛風止痛)

⑥胃腸機能を改善する
白朮 (補気健脾、燥湿利水、止汗安胎)
生姜 (発表解表、温中止嘔、温肺止咳)
甘草 (補脾益気、潤肺止咳、緩急止痛、緩和薬性)

のユニットで構成されているお話をいたしました。

分かりやすくするために、
ついでに各生薬の効能も追加でカリカリ書き足しておきました。

これを本来の防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)の薬味からどの位絞れるでしょうか?

とりあえずは、この中から代表選手を選んでみます。
まず、

①からは、冷やしながら発散できる薄荷が魅力的ですが、
薄荷は発散力がイマイチ足りない気がします。
ここは温薬ではありますが、
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「発散力に自信ありな麻黄」をチョイスしてみます。
次に②からは当然というか…大黄をチョイス…、これは外せないでしょう。
③はやはり熱を小便に排泄させるということから、滑石をチョイス、
はっきりした利水滲湿薬であることが決め手です。
そして④は冷やす生薬の王様の石膏
⑤はなかなか悩ましいのですが、まぁ当帰かな~。
なぜなら、当帰1味でいちおう補血も活血もできるので…。
でも、ある意味「芍薬」でもいいかとも思いました。

話のついでに少々説明いたしますと、厳密に言うと漢方に
「芍薬」などという生薬は存在しません。

何故なら、芍薬の根の皮をとったものを「白芍(びゃくしゃく)」、
とってないものを「赤芍(せきしゃく)」と区別してよぶからです。
「白芍」は主に「補血」、「赤芍」は主に「活血」します。
よく中医の先生が同時に用いるのをみかけます。
ついでのついでに、さらに説明しますと、
「当帰」は主根部を「帰身(きしん)」、支根を「帰尾(きび)」といいまして、
古人が色々といっておりますが、
大きくは「帰身」は「補血」「帰尾」は「活血」するようです。

このあたりで話を戻しますと、
最後の⑥は重要性が低いので思い切ってカット…。
と、いうことで、ミニエコ防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は、
めでたく(?)麻黄・大黄・滑石・石膏・当帰に決定です。

独断と偏見に基づいてのものなので、
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他のご意見が(必ずや)あると思いますが……。
どうかご容赦ください…。

(著者 薬剤師 国際中医専門員A級合格者 山内漢方薬局 山内)