山口小グループ漢方研究会 勉強会資料 講師:山内

2018.11.6  防府市のアパホテルにて コタロー漢方にて

§定悸飲

まずは組成。
茯苓 桂皮 白朮 甘草  呉茱萸 李皮 牡蛎
となっております。
(苓桂朮甘湯の加方であることが分かりやすいように並べてみました)
舌質淡紅で胖大、舌苔は滑~白滑の方が中心となるでしょう。

この処方が治療できる奔豚は、見ての通り漢方で治療が期待できます。しかしながら、通常、現代では確実に精神科に連れていかれますので、是非とも皆様でくい止めていただければと思っております。ちなみに「奔豚気」とも呼ばれ、英語ではrunning pig syndrome と訳されるようです。患者さんに詳しく症状を訊ねると,「お臍のあたりからドキドキが駆け上がってきて,咽を通り過ぎ,最後に顔がカーッと熱くなる」という方が非常に多いようです。とても具体的なので、参考になるかと思います。この症状は,正常なら上から下へ流れるべき「気」が,瞬間的に逆流することによって起こるといわれます。

読み進めていくと、文章の真ん中あたりに「外台秘要方の牡蛎奔豚湯を変方して作られたもの」という一文がございますので、なにはともあれ調べてみました。

まず、牡蛎奔豚湯は小品牡蠣奔豚湯という記述もされておりまして、それは…

「臍底に動気ありて、時々奔豚気小腹より起り、撞胸(どうきょう?)愚冒(ぐぼう?)し、上逆或は心痛、手足逆冷の者。此の方之を治す。」(愚冒とは、精神を失い、うっかりとして気抜けの如くなるを云う)
とあります。
組成は、
牡蠣 桂枝 李根皮 炙甘草
定悸飲と共通部分がかなりあります。
ただし、定悸飲の方には利水力がありますが、こちらにはないのが大きな違いだと言えます。

【小品牡蠣奔豚湯:組成】

牡蠣
性味:鹹・渋・微寒
帰経:肝・胆・腎
①鎮驚安神:心神不寧による、驚きやすい・びくびくする・焦燥感、不眠・多夢・動悸などの症候に。
②益陰潜陽:熱病傷陰・虚風内動による四肢のひきつり、震えなどに。
③収斂固脱:自汗・盗汗などに。
④軟堅散結:瘰癧(頸部リンパ節腫)・痰核(しこり)、肝腫・脾腫などに。

桂枝
性味:辛・甘・温
帰経:心・脾・肺・膀胱
①発汗解肌:風寒表証の頭痛・発熱・悪寒・悪風などに。
②温通経脈:風寒湿痺の関節痛時に。
③通陽:脾胃虚寒の腹痛時、心気陰両虚で脈の結代・動悸がみられるときなどに。

炙甘草
性味:甘・平
帰経:脾・肺・胃
①補中益気:脾胃虚弱で元気がない・無力感・食欲不振・泥状便などの症候に用いる。
②潤肺止咳:風寒の咳嗽時に用いる。
③緩急止痛:腹痛・四肢の痙攣時などに用いる。
④清熱解毒:咽喉の腫脹や疼痛などに用いる。
⑤調和薬性:性質の異なる薬物を調和させたり、偏性や毒性を軽減させたりする。

そして李根皮なのですが、
あまり中医学的な良い資料が私の周りに見当たらなかったので、
チョット百度百科という中国語版のWikipediaといったもので調べてみました。
原文はこんな感じです。

性味
味苦、咸,性寒。
归经
归心、肝、肾经。
功效
清热,下气,解毒。
主治
用于气逆奔豚,湿热痢疾,赤白带下,消渴,脚气,丹毒,疮痈。

日本の漢字に治すと…

性味:苦・鹹味 寒性
帰経:心・肝・腎
効能:清熱・下気・解毒
主治:気逆奔豚・湿熱痢疾・赤白帯下・消渇・脚気・丹毒・瘡癰に用いる
といったところになります。
赤白帯下は白色帯下と血性の帯下が混じったものが持続的に排出すること、あるいは白帯と血性帯下が交互にみられることをいいます。

ちなみに日本薬局方外生薬規格2015にも
リヒ
Plum Bark
PRUNI SALICINAE CORTEX
李皮 李根皮 李根白皮 リコンピ リコンハクヒ
本品はスモモ Prunus salicina Lindley (Rosaceae)の樹皮又は根皮である
と、のっておりますが、年代が最近であることからもポピュラーな生薬とは言いがたです。

ここで定悸飲の薬味である、茯苓 桂皮 白朮 甘草 呉茱萸 李皮 牡蛎
と比べてみると、
茯苓 白朮 呉茱萸
が、これらには足りないことが分かります。
茯苓、白朮がある方が、利水力があるので痰湿型に有利と言えますし、呉茱萸は散寒薬で、性味は辛、苦・熱、帰経は肝、脾、胃で、散寒止痛、疏肝下気、燥湿の効能をもっています。特に、疏肝下気の効能がここでは重要と言えます。エキス剤ではなかなか入っている製品が少ない生薬と言えます。
このあたりの違いに着目すると、痰湿型には使いやすいですが、陰虚型には使いにくいのではないかと思います。
そして、この処方で忘れてはならないのが、茯苓には安神作用もあるという事です。
奔豚について読めば読むほど、「これはパニック障害のことですよね」と思わせます。

そして、歴史を振り返っておいてなんですが、現代医学でも奔豚にアプローチを試みていらっしゃる方もいるようです。
かなり参考になると思いましたので、ご紹介しておきますと、奔豚気(類似)病態診断基準(寺澤による)というのがありまして、

1.腹部から心下あるいは胸内への突き上げ感
2.発作性の顔面紅潮
3.発作性の上熱下寒
4.動悸発作
5.臍上または臍下の悸
6.不安感,焦燥感
7.発作性の頭痛,咽喉閉塞感,あるいは胸内苦悶感
〔判定〕以上7項目のうち,3項目以上を満たすもの。

と、なっておりました。「なるほど、参考になる」と思った次第です。

では、類方鑑別にいってみましょう。
とはいっても、自分は中医あがりの人間なので、かなり中医思考側になっております。
ご了承ください。

では、
苓桂味甘湯
苓桂甘棗湯
苓桂朮甘湯
を、3つまとめてやっていきたいと思います。

まず、これら3つは苓桂甘が共通しています。
よって、
利水滲湿、健脾安神、
発汗解表、温通通陽、
補脾益気、潤肺止咳、緩急止痛、緩和薬性
はどれもあることになります。
勝手ながら、要点を絞らせていただくと、
利水滲湿、健脾安神、通陽
でよいのではないかと思うところです。

そしてそれぞれ不足の生薬を足したものが、
各処方の違う部分という事になります

つまり、
苓桂味甘湯は五味子が加わっているので
斂肺滋腎、生津斂汗、渋精止瀉、寧心安神
の効能が足されることとなり、
苓桂甘棗湯は大棗が加わっているので、
補中益気、養血安神、緩和薬性
の効能が足されることとなり、
苓桂朮甘湯は白朮が加わっているので、
補気健脾、燥湿利水、止汗安胎
の効能が足されることとなります。
これらはこういった加減法的思考の方が、分かりやすいのではないかと思う次第です。

そして、
帰脾湯。
これに関してはだいぶ毛色が違うので
少し丁寧にご説明していこうと思います。
中身は
黄耆、龍眼肉、人参、当帰、酸棗仁、白朮、茯神、炙遠志、木香、炙甘草
が済生方の原典処方ですが
日本の製剤では大棗、生姜が加わって12味になっております。
また、茯神は茯苓になっています。
ちなみに私は
黄耆、人参、白朮、大棗、生姜、甘草→補気組
酸棗仁、茯神、遠志→安神組
龍眼肉、当帰→補血組
木香→利気組
という流れで把握しております。
舌質淡白の方が中心となるでしょう。

§黄連阿膠湯

やはりまずは組成。
黄連 黄芩 芍薬 鶏子黄 阿膠
となっております。
舌質紅、舌苔黄の方が中心となるでしょう。

種類は清虚熱剤に分類されます。出典は有名な傷寒論。
組成で注目したいのが阿膠(沖服)と鶏子黄2枚(沖服)です。
沖服なので、煎じた後で溶かして飲む事になります。
これを毎回毎回やるのは、大変お客さんにとって大変な作業なので、こういったものに便利な「製剤」が発売されるのは大変ありがたい事だと思います。

方剤の解釈としては君薬の黄連と臣薬の黄芩が直接心火をさまし、佐薬の阿膠が補肝血(補腎精)をし、白芍も補肝血(補腎精)し、鶏子黄が滋補心腎(交通陰虚火旺)することで不眠を治療するものです。
ちなみに()してあるのは、現在の中医学では少々疑問がある部分です。
方剤の効能は「泄火育陰」といわれます。私個人としては実に的確な表現だと思います。
そもそも
「少陰病二、三日以上で、精神的に落ち着かない状況下の不眠」
に用いるものです。しかし、皆様ご存知のように少陰病は
「寝てばかりいたい」
場合も多いのですが、この処方はまったく反対の状況に対して作られたものです。この辺り、色々な勉強会等で御意見がでるところです。
ちなみに私の考えは、「単に陰虚になった人が発症する」というものです。
この方は太陽病、少陽病、陽明病と、ず~っと消耗し続けてきたのですから、一定の割合で、陰が傷つく人もいるでしょう。
だから、温病に応用できるのも当然だと思っています。傷寒よりも温病の方がよほど熱証を発症しやすく、熱によって陰が傷つくからです。
舌質は紅、苔黄で少あるいは無苔の方が中心となるでしょう。
ちなみに、
「胃気が虚して、上逆するために心窩部が硬く痞えていて、熱結と間違えて瀉下するとよけいに悪化するので気をつけてください」
といった注意書きがあるのですが、舌診が正確であれば、瀉下なんてするわけないです。苔少あるいは無苔の部分で陰虚であることはすぐ分かります。ちなみに私は友人にこの処方を(これ以外にものすごく加減されていますが)、師匠の老中医の助言通りに出したことがあるのですが、その友人は鏡面舌でした。陰虚も陰虚です。

ここで、少しだけ百度百科で黄連阿膠湯の要点を引っ張っておくと、

功用
扶阴散热。
主治
少阴病,心中烦,不得卧;邪火内攻,热伤阴血,下利脓血。
となっており、扶阴(陰を助ける)から始まっているあたりに、この方剤の要点を感じます。
では、類方鑑別にいってみましょう。

酸棗仁湯
{著者用メモ 人参養栄湯で川芎は辛散より心神不寧に不適とあるが是非皆様の御意見を聞きたい}

黄連解毒湯

温胆湯

帰脾湯

{著者用メモ ここまでの全方剤、黄連阿膠湯との合方例 紹介推奨}