(魚鰾)
音声での紹介もあります(この項の全文です)↓
最近TVで魚の浮袋を取り上げた番組をやっていました。
そういえば、東洋医学の分野では知られているかもしれませんが、
日本ではあまりなじみがなく、
メジャーでもないかと思います。
日本でも発売されているのですが、あまり知られてないでしょう。
不妊の相談なんかで登場するものです。
とかく、女性のせいにされがちですが、
文字通り責任転嫁というものです。
男性陣も頑張りましょう。
(オーーーーーーーーーーーーーー!)
インターネットを検索してみてもあんまり詳しい情報が出てこないので、
ちょっとページを作ってみることにしました。
あんまり、日本語のもので充実している情報源がないので、
百度百科という中国のWikipediaというべきもの(信頼性が高いので)を参考に
少々説明してみようかと思います。
医学用語を翻訳機能にかけると、まぁ好き勝手な文章が沢山出てきます。
専門用語が多いからだと思いますが、まだまだ、改良が必要なようです。
まず、名前は魚鰾といって、
ニベ科の魚のフウセイ、キグチや、
チョウザメ科のダウリアチョウザメ、カラチョウザメなどの浮袋です。
ニベ科のフウセイ、キグチは日本ではあまり食べられませんが、
大きくはスズキの仲間です。
海でたまに釣れるイシモチもニベ科です。
山口県でも釣れます。
そして、チョウザメ といったらキャビアを思い出す人も多いでしょう。
そして、漢方でいう帰経は肝腎。
味は甘、性は平。無毒。
効能は補腎益精、滋養筋脈、止血、散瘀、消腫となっております。
補腎益精とは、漢方でいう腎を補うので、精力のみならず
ホルモン系、骨代謝など生命エネルギーの源を補うことができます。
滋養筋脈とはスジや血管に栄養や潤いが行き渡るようにすることです。
ここがやられると痙攣などが起きたりします。
さらに、瘀血と呼ばれる血の濁りをとり、
止血し、腫れを消し去ることができます。
この性質から腎虚滑精、産後風痙、破傷風、吐血、血崩、創傷出血、痔瘡
の治療に用いる事ができます。
例によって注釈を入れますと、
腎虚滑精とは漢方でいう腎が弱いために精液を留めておく力(固摂)が弱く、
精液が漏れ出てしまう事を言います。
産後風痙とは、出産後に手足など各所のふるえや痙攣、背中の硬直、
ひどい場合には歯を強く食いしばった状態で硬直が起こったり、
背中が弓なりに反ったりするといった症状が出ることがあります。
これに使えるのであれば破傷風に使えることは、
補足の必要は特にないかと思います。
そして、血崩とは女性が陰道より大量出血することを言います。
用法用量は煎じ薬だと15~25gとなっております。
中国量なので少なめに考えた方が良いでしょう。
丸剤にはドロドロに煮詰めた物や、
細かく砕いて粉にしたものを使います。
外用としては溶かして塗ります。
ちなみに、消化不良、食欲不振、食後膨満感がある人、
痰が多い方は使用できません。
こってりと体を補うタイプの生薬には、
こういった縛りがあることがよくあります。
滋養たっぷりなことが常にいい事とは限りません。
そうは言っても、「とても切実な悩み」から、
どうしてもこれを使ってみたいという方もいらっしゃると思います。
それならば、
六君子湯などの化痰作用を併せ持つ胃腸を補助する処方の併用
という方法を取ることもできます。
消化不良が強ければ
山査子に代表される消導薬を使うのも有力な選択肢だと思います。
漢方でいう「精」を足したり、増やしたりする生薬には
紫河車、肉蓯蓉、鹿茸、鹿角膠、鎖陽、蛤蚧、蓮子、何首烏…等があるので、
体質(証)にあわせてそちらに方向転換する方法もあります。
面白いところではナマコもその効能をもっていたりします。
話を戻して、百度百科を更に読み進めていきますと、
「方剤セレクション」が出現します。
これは、なかなか全部訳すのは大変なのと、
無理に漢方でやらなくてもいいと思う事も書かれているので
簡略化していきたいと思います。
例えば、破傷風の治療について書かれていたりもしますが、
現代においては、破傷風トキソイドを打てば
話は終了してしまいます。
しかし、産後風痙への有用性は高いなと思います。
現代医学でいう、産褥子癇のことです。
子癇は妊娠高血圧症候群の方の約1%に発症し、
うち妊娠子癇が半分、分娩子癇と産褥子癇を合わせたものが
半分くらいの割合でおきます。
分娩全体だと0.05%、
すなわち先進国では2000人に1人くらいの割合で
発生するといわれています。
子癇発作が反復すると脳浮腫をきたし、致死的となりますので、
選択肢が多いに越したことはないと思います。
常位胎盤早期剥離、肺水腫、誤嚥性肺炎、心不全、
脳血管疾患を合併しやすいのも気になるところです。
因みに、
妊娠中の脳梗塞も脳出血も
子癇・妊娠高血圧腎症に4割ほど続発します。
ゆえ、子癇の後、脳出血が見つかっても、
それだけでは脳出血を見落とした(誤診)とはいえないという、
やっかいさがあります。
しかも、子癇発作直後はちょっと動かしたり、
光があたったりするだけの事が痙攣発作を引き起こして、
命にかかわる事態をかなりの確率で起こすので、
普通はCTとかは取らないのです。
(というか、ものすごくハイリスクなので取れない…)
治療としては気道確保、酸素投与、輸液管理、舌損傷の予防、
そして薬剤師の専門分野である薬物療法が行われます。
使われる薬剤は、
抗 痙攣 薬の硫酸マグネシウム、
フェニトイン、ジアゼパム、フェノバルビタールなどの静注や、
降圧薬のヒドララジン、ラベタロールなどです。
特に、硫酸マグネシウムは非常によく使われるものです。
ちなみに、慢性の妊娠高血圧症候群の場合は
メチルドーパなどの降圧剤になります。
急性期や発作時に魚鰾を使うというのは現実的ではないので、
少し症状が落ち着いてから再発予防も兼ねて
飲んでもらえれば良いかと思います。
また、男性の方では、
腎の気が不足(腎気虚)すると、早漏・夢精・遺精などが起きることがあります。
腎は精を貯蔵しているので、
過度の性交・手淫などで腎気を消耗すると、
初期は早漏を呈し、ひどい場合はED(勃起不全)となります。
………
この腎気虚の特徴は、
腰や膝がだるい・腰痛・脱毛・歯がぐらつくなどの症状があることです。
このタイプは、魚鰾を試してみる価値が特に高いと思います。
うちにも「海精宝」という魚鰾を使った健康食品があったりします。
健康食品なのでどこにも効能・効果は書かれていないので、
買いやすいかもしれません。
ちなみに、早漏で多いのは先の腎気虚、
そして肝経湿熱・心脾両虚・心腎陰虚
ではないかと思います。
それぞれ特徴を書き足しておきますと、
肝経湿熱はイライラ・尿が濃い・排尿困難・口が苦い・陰部の搔痒・舌苔が黄、
心脾両虚が顔色に艶がない・元気がない・痩せている・倦怠感・食欲不振・泥状便・動悸・自汗・多夢・健忘・舌質が淡、
心腎陰虚は盗汗・潮熱・五心煩熱・口渇・腰がだるい・頭のふらつき・めまい・耳鳴・尿が濃い・舌質が紅です。
そして、心腎陰虚についてもう少し補足しますと、
これは心脾両虚がずっと続くことによって、
さらに重症になった状態ですので、
心脾両虚の症状も通常併せ持っています。
もう一つ付け加えますと、
この心腎陰虚も肝経湿熱も尿が濃いという症状が起こりえますが、
心腎陰虚の方は体を冷やす為に必要な水や血が減少しているせいで熱が溜まっていることによって
肝経湿熱は必要ない熱と水分が溜まっていることによって起こっている点が異なります。
ゆえ、心腎陰虚の方は必要なものを補う事によって治療できますが、肝経湿熱の方は余分なものを排除することによって治療します。
方向性が逆になりますのでご注意下さい。
さらに、代表処方も書き足しますと、
腎気虚が鹿角散、
肝経湿熱が加味三才封随丹、
心脾両虚が帰脾湯(竜骨・鹿角などを加える)、
心腎陰虚が天王補心丹となります。
天王補心丹は日本でもあるところにはあるものですが、
鹿角散・加味三才封随丹は日本では簡単に手に入らないので、
少々工夫します。
まず、鹿角散は鹿茸の入っている製剤を組み合わせることで代用し、
加味三才封随丹の方は短期間であれば、
竜胆瀉肝湯で代用できます。
ただし、効果があればすぐ中止し、
使い過ぎないようにしてください。
ちなみに、加味三才封随丹の
薬味(中に入っている構成生薬)は
天門冬、生地黄、人参、黄柏、甘草、縮砂
竜胆、山梔子、柴胡
の9つです(なるべく日本で使用されている表記に従って書いてみました)。
前半の天門冬、生地黄、人参、黄柏、甘草、縮砂までが、三才封髓丹のもので、
後半の竜胆、山梔子、柴胡が加味(生薬を追加した)部分です。
漢字も実は日本語表記が「加味三才封随丹」で
中国語表記が「加味三才封髓丹」です。
ズイの字が「髄」と「髓」で微妙に違います。
「人参」もあっさりめの補気薬「党参」に置き換えてあったり、
「縮砂」が「砂仁」で表記してあったり、
「竜胆」も「竜胆草」や中国語で「龙胆草(中国の漢字)」と書いてあったりと、色々あります。
歴史が長いせいか、
ある程度の基礎知識が無いと
読んでも分からないようなことが
漢方には結構あるものなのです。
というわけで、詳細は専門家にご質問下さい。
この処方自体を「製造」して売ることは、
現在の日本の法律ではできませんが、
各生薬を買ってきて自宅で作ることは可能です。
どうしてもという方は作る手間と煎じる手間と合わせて
かなりの労力になりますが、使用できなくはないです。
(著者 薬剤師 国際中医専門員A級合格者 山内漢方薬局 山内)
台風の影響で延期となった、
2018年10月14日(日)の山口県伝統生薬研究会の「腎陽虚」を中心とした講演は、無事終了することが出来ました。
厚く御礼申し上げます。
また、別のメーカーになりますが、
2018年11月6日、2019年3月5日(アパホテル<山口防府>)の
山口小グループ漢方研究会の講師も無事につとめられました。重ねて御礼申し上げます。